夕方の住宅街、僕の前には、抜くには速く、後をついていくには遅い微妙なスピードで歩く女性がいた。
ずっと後ろについて歩くのも気まずいと思い、僕は、意を決して早足で歩く。
しかし、普段の運動不足がたたってか、ちょっとスピードを上げて歩いているだけなのに息が乱れそうになる。
女性との距離があと3メートルというところまで近づいたところで、僕は息を止める。「はぁはぁ」と息を切らしながら近づいたらまずい。とてもまずいのだ。
横を通り過ぎる時は、できるだけスマートに、軽く腕をふりながら、早足でウォーキングしてます風を装う。どんなに苦しくてもここは我慢。
抜き去ったところで、バレないように「はぁー」と大きく息を吐く。ただし歩くスピードはまだ緩めてはならない。ウォーキング中というテイだからだ。
しばらく早歩きを続け、十分に距離が離れたところでやっとスピードを落とす。
まったく何をやっているのだろうか。息つらい世の中だな、と僕は心の中でつぶやく。