【15】退院

これは、脳のがんとも言われる脳腫瘍(G2、乏突起膠腫)を患ったときの体験記です。2015年7月、東京女子医大で脳腫瘍の覚醒下手術をしました。1カ月弱の入院生活を経て、ついに退院できるまでに回復しました。ここでは、退院時の様子について書きたいと思います。
(※覚醒下手術とは意識がある状態で腫瘍の摘出を行う手術のことです。参考までに、こちらの記事もどうぞ)

お世話になった皆さんとお別れ

退院日(2015年7月24日)の午前中、外来センターにある入院受付に行って退院の手続きをしました。手続きを終えて病棟に戻る際、入院した日に緊張しながら入院の手続きをしたことを思い出しました。病院から出られない可能性もあると思ったりしたので、退院できるまでに回復したことはとても感慨深かったです。

病室に戻ってからは荷物をまとめながら家族が来るのを待っていました。荷物を整理してみると、来た時と比べて荷物がちょっと増えていました。入院中に着替えやタオルなどが増えていたからです。全部を持って帰るのは大変そうだったので、手荷物として持って帰りたいもの以外は病院から郵送することにしました。そうこうしていると家族が迎えにやって来ました。

お昼頃、準備ができたので病院を出発する旨を看護師さんに伝えました。

帰りの際には、ナースセンターに居たスタッフの皆さんがわざわざ仕事の手を止めてエレベーター前に見送りに来てくれもしました。主治医のM先生以外の人とは外来で診察に来ても基本的には会うことはないので、もう会えないのかなと思うと寂しく感じました。(ただ実際は退院してから2,3回ほど元気になった姿を見せにナースセンターに顔を出しに行きました。ある程度元気になった姿を見せることで感謝の気持ちを表せたらと思ったからです。)

今ではもうナースセンターに顔を出すこともなくなって、最後に顔を出してから2年以上経ちます。外来センターに診察に行く時は必ず入院病棟の前を通るのですが、その際にスタッフの皆さんは今日も頑張っているのだろうなと懐かしく思ったりします。入院期間中にお世話になった担当医師や看護師をはじめとするスタッフの皆さんには、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

実家に移動するとき苦労したこと

実家までは最小限の労力で移動したいと思いました。退院時の体の状態と、一時外泊の時にちょっとした電車移動でもしんどかった経験があったからです。なので、病院から東京駅まではタクシー、東京駅から実家の最寄りの駅までは電車、そこから実家まではタクシーで移動というルートで帰ることにしました。東京駅から最寄りの駅までは乗り換えなしで帰れるので、このルートならば大丈夫だろうと考えました。

ですが、予想に反して2つも壁にぶつかりました。1つ目は、東京駅構内の移動です。これはタクシーを降りて東京駅の改札を通った瞬間にヤバイなと思いました。東京駅にいる人の数は一時外泊の時に周りにいた人の数とは比べものにならないほど多く、その上、自分が乗る電車のホームまで人の間を縫って行かなければならなかったからです。その時の自分には相手を避けながら歩くことはできそうになかったので、相手に避けてもらいながら端の方をゆっくり歩くようにしました。頭がクラクラしてきて、ホームにたどり着けるか心配になったほどでした。

2つ目は、車窓に流れる風景です。一時外泊のときと変わらず、このときもまだ視覚情報が目にたくさん入ってくるのがしんどい状態でした。次から次へと変わる窓の外の風景が目に入ってくるのがとても苦痛でした。なので、顔を伏せて駅に着くまでじっと我慢していました。電車に乗っていただけなのに、だいぶぐったりしてしまいました。

どちらも苦労しましたが、何とか乗り越えて無事に実家にたどり着けたので一安心しました。

退院してみて思うこと

入院する前は、早く退院して外の生活に戻りたいと思ったりするのかと想像していましたが、意外とそうでもありませんでした。なんならリハビリを兼ねてもうしばらく入院していたいくらいでした。思っていた以上に居心地が良かったからだと思います。スタッフさんが、患者にストレスを感じさせない様にすごく気が配ってくれているなと感じました。

以前、父が地元の病院の脳外科に入院した時、病棟内の臭いがキツくて嫌だなと感じたことがありました。脳外科は吐いてしまう患者さんが多いので、仕方ないのかなとその時は思いました。

また、看護師さんがピリピリしていたり対応が雑だなと感じることもありました。その時も脳外科は厳しい環境なので仕方がないのかなと思っていました。なので入院前は、そういったことがあるかもしれないと覚悟していました。

ですが、実際に入院してみると、入院中に臭いがキツかったり空気がピリピリしているなと感じることは一度もありませんでした。病棟内は清掃スタッフの方の掃除が行き届いていて清潔に保たれていましたし、看護師さんはピリピリした空気を患者に感じさせることはほとんどなく、常に落ち着いた対応をしてくれていました。おかげで入院生活を快適に過ごすことができたのだと思います。

不思議と充実感のあった入院期間

入院期間中は自分の人生の中でも最も「今できること」に集中して一日一日を過ごした時間でもありました。手術であったり、リハビリであったり、その時々でやるべきことに集中できていた気がします。病気で大変な思いをしたのに変な話ですけど、充実感すらあったように思います。

死を身近に感じる状況になっても、「今できること」に集中して生きていると、充実感を得られることを体感しました。その点においては、良い体験をしたなと思います。この先、いつ何が起きるかわかりませんが、「今できること」に集中できれば結果にかかわらず納得の行く人生が送れるのではないかと思うようになりました。

ただ、退院してしばらく経つと、病気を乗り越えることだけに集中できていた状況とは異なり、生活のことや将来のことなど「今」に集中できなくなることが多いと感じます。それでも、難しいことではありますが、頑張って延ばした人生を充実させられるよう「今できること」に集中して生きていきたいです。

この記事は個人の体験に基づいて書いたものです。病状などは人それぞれ異なるものなので、気になることがあったら必ず、主治医に確認してください。本ページについてご質問等ありましたらお問い合わせページからお願いします。

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