まだ肌寒さがのこる春のある日、コートのポケットに手を入れたままトボトボと歩いていた僕は、とある店の前で立ち止まった。やっぱ寒い日にはここだよなとお気に入りのラーメン店の暖簾をくぐる。
券売機を前にして僕は考える。角煮美味しそうだな、いやさすがに角煮トッピングはやりすぎか?うーん、よしこれでいこう、食券を手にし空いていたカウンターの奥の席に座る。
しばらくして目の前にラーメンが運ばれてきた。濃いめの味噌ラーメンだ。大学時代を札幌で過ごした僕にとってラーメンと言えばやっぱり味噌だ。麺は中太麺がいい。九州の人には申し訳ないが細麺はあまり受け付けない。具は大きめのチャーシューが2枚、のりにもやしにメンマ、贅沢に味玉をトッピングしてみた。丼の端にはほうれん草が添えられている。
僕の頭の中に嫌でも浮かぶ「野菜不足」の4文字に対抗する一本槍、それがこのほうれん草だ。スープ、チャーシュー、味玉、これら強敵からの攻撃(カロリー)全てを中和するために存在していると言っても過言ではない。ありがとうほうれん草、おかげでラーメンを心置きなく食べられます。
ラーメンとの格闘も終盤戦にさしかかったころ、味の染みたチャーシューをほおばり、ふぅと息をつきながら顔を上げると店主と目が合った。肉の脂を堪能した僕の表情に罪悪感の色を感じ取った店主から「今だ」と言われた気がした。意を決して僕はほうれん草を口に入れる。力を得た僕はここから一気に最後まで駆け抜けた。
ほうれん草を配置するという店主の見事な采配によって、罪悪感を感じることなく無事ラーメンを食べきることができた。もしほうれん草がなかったら家まで走って帰らなければ罪悪感を消すことができなかっただろう。
「ごちそうさま」と言い店を出る。こうして僕は、ほうれん草という名の言い訳を噛み締めながら帰路についたのだった。
