個の力とシステム

よくスポーツの解説など(サッカーの解説でよく聞く気がする)で、「個の力」か「システム」か、といった話題を耳にすることがある。トルシエが日本代表の監督をやっていたころ、特に多かった気がする。

解説では、「個の力」と「システム」を対立構造で語っていたが、僕はバスケットボールをやっていた経験から「個の力」と「システム」は対立構造にはないと思っている。「システム」は土台で、「個の力」というのはシステムをより強固にしたり、プラスアルファの力をもたらすものというのが僕の考えだ。

バスケットボールの神様と言われたマイケルジョーダン率いるシカゴブルズが黄金期を作ったのも、ジョーダン個人の力だけではなく、脇をサポートするメンバーと、何より「トライアングルオフェンス」というシステムの導入が大きかったと思う。

ちなみに「トライアングルオフェンス」というのは、その名の通りオフェンスのシステムで、人とボールを流動的に効率よく動かすためのルールのようなものだ。ルールと言ってもガチガチに決められたものではなく、ディフェンスの状況に応じていくつか選択肢があって、その中から一番良いと思うものをプレーヤーが選択するといったものになる。0からプレーを組み立てるのではなく、ある程度決められたプレーから選択することで仲間同士でイメージを共有しやすいという利点がある。

こういったシステムがあることで、仮に1試合90点取るとした場合、90点全てを個の力だけで取るのではなく、60点はシステムの力を利用して取って30点を個の力で取るみたいなことが可能になる。システマチックな方法で点が取れる分、この方がオフェンスにかける労力が少なくて済む。また、オフェンスはその日の調子に左右されやすいと言われるが、システムに従っていればある程度安定して点を取れることができる。その上、個の力はここぞって時に集中して発揮すればよい状況になり、個の力がより活かされやすくなる。

こうなると安定して点が取れるのでチームが負けづらくなる。これがシステムの良さであり、僕がシステムは土台だと言った理由でもある。

ドラマなどでは、個と組織を対立構造にして、個の力で組織をやっつけるみたいなストーリー展開の方がウケるのかもしれない。「私、失敗しないんで」とか言う医者が活躍する方が面白いのだろう。

でも実際は、しっかりしたシステムの上で個の力を発揮できる環境がベストだと僕は思う。よくゴッドハンドとか言って名医を紹介する記事などを見たことがあるが、病院の組織力を評価する記事もあったらいいのになと思う。