これは、脳のがんとも言われる脳腫瘍(G2、乏突起膠腫)を患ったときの体験記です。2015年7月、東京女子医大での脳腫瘍の覚醒下手術を終え、病院でリハビリを続ける日々を送っていました。3週間目には一時外泊を行いました。他にも、病理検査の結果が出たのでその説明もありました。今まで推定だったグレードが、ここで初めて確定しました。ここではリハビリ3週間目の様子を書きたいと思います。
(※覚醒下手術とは意識がある状態で腫瘍の摘出を行う手術のことです。参考までに、こちらの記事もどうぞ)
一時外泊で病院内と外の違いを体感
手術をしてから3週間目、病理検査の結果が出る前に、家族付き添いのもとで一時外泊をすることになりました。一時外泊の目的は、リハビリの一環として病院の外での生活を体験してみるというものです。また、病理検査の結果次第では放射線治療などを行う可能性がありました。そうなると、さらに1,2ヶ月入院期間が延びるので、その前に一度気分転換をするという意味もありました。
当初は病院から2時間くらいの場所にある実家に帰る予定でした。しかし、前の週に軽く発作を起こしていたので、再び同じことが起きたら不安だったということもあって、タクシーで20分くらいのところにある病院近くのホテルで一泊することにしました。
外に出てみてまず思ったことは、目から入ってくる情報量が多くて脳が疲れるということでした。都内なので人も多かったですし、飾り気のない病院とは違い街のごちゃごちゃした景色が視界に入ってきてとても苦痛でした。
この視覚情報が多くて脳が疲れるというのは伝わりにくいことだと思いますが、例えば、スマートフォンでSNSのタイムラインを素早くスクロールさせて、じっと画面を見ている状態に似ている気がします。音ではないですけどうるさいというか、不快で情報を遮断したくなる感覚が似ているように思います。
また、外出してみて、ナースコールがない心細さをすごく感じました。病院内では何かあってもすぐに誰かを呼べる安心感があって、それが当たり前になりつつありました。退院したらそういった環境がなくなってしまうのかと考えると、とても不安になりました。入院している間にリハビリを頑張って退院後の生活にしっかりと備えないといけないと思いました。
外出して唯一良かったと思えたのは食事です。ホテルだったのでちょっと高めのステーキを食べました。病院食に対してそれほど不満があったわけではありませんでしたし、病院内のコンビニで好きなものを買って食べていたので、中にいるときは特に美味しいものが食べたくて仕方がないというわけでもありませんでした。だけど、やっぱり外で食べるご飯はとても美味しくて、病院食やコンビニの食べ物とは違うなと思いました。
翌日の昼過ぎ、地下鉄に乗って病院に戻りました。一応リハビリを兼ねた外泊だったので、帰りは電車に乗ることにしました。それほど長い距離を移動したわけではありませんでしたが、人にぶつからないように気をつけながら歩くだけでも疲れてしまいました。一時外泊をしてみた感想としては、あまりリラックスもできず、どちらかと言うと退院後の生活に不安が残ってしまったという感じでした。
病理検査結果の説明
一時外泊を終えた二日後、主治医のM先生から検査結果についての説明がありました。結果は、分類がグレード2の乏突起膠腫で、摘出率が目標の95%以上を達成したということでした。
結果を聞くまでは、やるだけのことはやったし、きっと良い結果が出るはずだと期待したい反面、グレードが3だったり摘出率が不十分だったりするかもしれないという怖さもありました。ですが、良い結果が出て、普段は人前で泣く方ではないのですがホッとして気づくと目から涙が出ていました。
細かな話としては、術後2ヶ月くらいは発作の心配があるので薬で対処しながら様子を見るということ、顔の麻痺が強く出ているので感覚が戻るのに数年かかるということ、運動機能を回復させるためにできるだけたくさん動かすよう意識することといった説明もありました。
また先生からは、覚醒下手術を乗り越えたのだから決して弱くはないし自信を持って良いといったことや、一度は「死」を意識したことが強みになるといった言葉をかけてもらいました。
この結果、外科手術だけで十分な成果が出たため治療はここまでとなり、放射線治療などは行わないことになりました。なので、急ですが3日後に退院することになりました。
その後のスケジュールは、1ヶ月間の療養を経て仕事に復帰、仕事に復帰後1週間程度は半日出勤、そして体調を見ながら徐々に定時まで仕事するようにしていくということになりました。
結果が出た途端に急に話が進みだしたので、ちょっと慌てました。本当はもう少しリハビリをしたかったので、1週間後くらいの退院ということにして欲しかったのですが、次の入院患者もいるので期間は延ばせないということでした。
手術直後にも思ったことですが、2008年に病気が見つかって7年かけてやっとここまでたどり着いて、ようやく一区切りつけることができて良かったと感じました。そして、今後はこの生きながらえた時間をできるだけ有意義に使うようにしていきたいと強く思いました。
一般病棟に戻ってから3週間が経って、できるようになった事・できなかった事
3週間が経ち、できることがさらに増えてきました。一方で、まだまだ出来ないことも多くありました。
できるようになった事
- 病院内のコンビニに行って買い物をする
- 一時外泊
できなかった事
- 左手をスムーズに動かす
- 左側の顔の表情筋を動かす(まばたきすることはできました)
- 舌の左側を動かす
できなかった事ができるようになったのはいつ頃か?
入院中のリハビリに関する記事はこれで最後です。なので、入院3週間目でできなかった事リストに挙げている項目について、できるようになったのはいつ頃かとか、どの程度まで回復したかについて簡単に触れておこうと思います。
まず、左手をスムーズに動かす事について。左手を違和感なく動かせるようになったのは、退院しておよそ1年くらい経った頃です。程度としては、生活する上で困らないであるとか、あとはソフトウェアエンジニアとして仕事するのに困らない(パソコン入力で困らない)くらいには回復しました。
次に、左側の顔の表情筋を動かす事について。こちらは、この記事を書いている段階(退院後3年)では、まだ回復途中です。回復しきれていない点としては、例えば、笑った時に右と比べて左の口角が上がらず非対称になっていたりします。先生からは回復するまでには術後5〜10年くらいの期間が必要だと言われているので、まだしばらくはこの違和感と付き合うことになりそうです。
そして、舌の左側を動かす事について。舌が動かないことで一番影響を受けるのは滑舌です。そのため、しばらくはしゃべりづらさを感じながら話していました。これに関しては、1年半〜2年くらいでおよそなくなったように思います。ちなみに、現時点での回復の程度を数値で表すとしたら、手術前を100とすると、左手は95、表情筋は65、舌は90といった感じです。