「お前にディフェンスは期待してねぇけど、シュートだけは期待している」これは、高校時代の部活の監督に僕が言われた言葉だ。
高校3年間、僕はバスケットボール部に所属していた。中学ではテニスをしていたが、一学年上の先輩で、とても性格が悪く不評を買っていた人がテニス部に所属していることを知り、テニス部に入るのは早々にあきらめたのだった。
何部に入ろうかと迷っていたところ、部活に勧誘してくれたバスケ部の3年生達がとても気さくで雰囲気がよかったのと、チームスポーツもいいな、背番号とかなんとなくかっこいいし、というなんとも適当な理由でバスケ部に入部することにした。
入部当初、当然ながら中学校までのバスケ経験者との差は歴然だった。その上、僕は身長も172cmと低く運動能力がとくに優れているわけでもなかった。そこで、何か1つでもいいから武器を身につけようと、シュート練習だけは人一倍行うことにした。
そのために僕は、朝練習を行なった。毎朝7時に学校へ行き、部室で手早く練習着に着替える。ボール籠の中から状態のよさそうなボールを手に取り、両手でグッと押して空気圧を確かめる。空気圧は低すぎてもダメだし、逆に高くてボールが跳ねすぎるのもよくないものなのだ。
そして、ボールを抱え体育館へと向かう。朝一番の体育館は空気が張り詰め、なんとも言えない威圧感を感じてしまう。シーンとした体育館でドリブルを突くと、いつも以上にドンと響くボールの音がなおさらそう思わせるのかもしれない。
しかし、時間が経つにつれて徐々に慣れてくると、そんなボールの音も心地よく聴こえてくる。誰もいない体育館で行ったシュート練習は、僕にとって高校時代の楽しい思い出の1つだ。
僕は、部活を引退するまで、毎朝体育館に通い詰めた。たくさん練習したおかげで、3年生になる頃にはシュートだけは負けないと言えるレベルにまで達することができたと思う。
そして、最後の大会。僕らは地区代表決定戦まで勝ち進んでいた。この試合に勝てば県大会に出場、負ければ引退という試合で、監督は、ベンチにいた僕を呼び「シュートを決めて来い」と言ってコートに送り出した。
僕はこの試合、自分がシュートを決めて何としてもチームを勝たせたい、みんなともっとバスケットをしていたいと思いながら臨んだ。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、緊張からか消極的なプレーに終始してしまった。結局その試合、1本もシュートを決めることができなかった。そんな僕を見かねた監督は、僕をベンチに下げ「もっとシュートを打てばいいじゃねぇか」と僕に向かって言った。「もう一度チャンスをください」と喉元まで言いかけたが、僕は言うことができなかった。
そして、試合が終了するまで監督が僕の名前を呼ぶことはなく、結局、チームは試合に負け、僕たちは引退することとなった。
結果を残すことができなかったのもさることながら、練習の成果を出しきれなかったという気持ちが心のどこかに残っているせいか、あの試合のことを思い出すと、今でも悔しい思いが込み上げてくる。
あれから30年が経ち、今ではあの時のように純粋に何かに向かって打ち込むことも少なくなってきた。正直言って充実とは程遠い日々を過ごしている。それでもやはり、あの時の「シュート」に懸けた想いをいつかは何らかの形で果たしたい、と僕は今でもまだ思っている。